■最近になって時々は世間話に入ってくるようになった同僚。昨日の昼休みに、PCを見ていた彼が「えっ!」と大声を上げ、私に向かって「鳥山明が亡くなっちゃいました...」と。鳥山氏死去の報以上に、彼が話題を振ってきたことの方に驚いてしまったのだけど、とは言え、彼のみならず、多くの方々にとっては大きな喪失感を覚える訃報だったのでしょうね。
■私は、マンガ・アニメをほとんど通らずに来てしまったので、正直、彼の存在感にはピンと来ないところがある。それでも、そんな私でも、鳥山明という名前を見れば、彼が描いたいくつかのキャラクターを思い出すわけだから、確かに別格の作家だったと言えますわね。68歳かぁ。そっちの事実についてもいろいろ考えちゃうなぁ...
■1週間遅れではありますが、びわ湖ホール「ばらの騎士」の振り返りを。私が出向いた3月2日(土)と翌3日(日)の2公演で、主要キャストは別。私が観た方の主な出演者は以下の通り。
元帥夫人:森谷真理
オックス男爵:妻屋秀和
オクタヴィアン:八木寿子
ファーニナル:青山貴
ゾフィー:石橋栄実
指揮:阪哲朗
京都市交響楽団
■演出は中村敬一で、これはどこの劇場との提携もない、独自のプロダクションということだったのでしょう>2007年に沼尻竜典指揮で上演された時とも別プロダクションだった模様。地方の劇場が、たった2日の公演のために独自のプロダクションを制作する。しかも、演奏会形式+α的なものではなく"フル"のオペラとして。この事実に少し気が遠くなる感覚。実際、びわ湖ホールのSNSでは、かなり前から準備の様子が発信されていて、これだけ時間をかけてたった2日かぁ... と、複雑な心境にもなっておりましたが。
■閑話休題。その"地方劇場"の公演は、まったく普通に楽しめる内容でありました。不遜な言い方で申し訳ないが、でも、この「普通に楽しめる」がどれほどすごいことなのかは、私が申すまでもないこと。どこかに「穴」があったら、たちまち印象は悪くなってしまう。でも、そういうもののない、ちゃんと「こなれた」公演であったことは、まずは特筆すべきことと思います。
■歌手陣は総じて立派な歌唱だと思ったが、私の席(4階後方のほぼ"テッペン")だと、声の通りには若干の差も感じられた。出番が少ない分伸び伸びと歌えるからなのか、脇役陣の声の飛びの方が良かったようにも。あと、門外漢だから話半分で聞いていただきたいけど、ドイツ語の発音にやや難ありの方もいらしたような。とは言え、上記したように皆さんしっかりと歌い、演じておられたのは確かで、だからこそ「普通に楽しめた」のでありましたが。
■ピックアップして触れるとすれば、やっぱりオックスの妻屋氏かな。2年前に観た新国立劇場公演でも同役だったけど、これまた「普通に」道化を演じられるオペラ歌手って、日本に於いては貴重な存在なんじゃないかしら。オックスの造形としては、粗野で下品な方向性と、貴族の上品さはあるものの高飛車みたいな方向性があるけれど、今回の妻屋オックスは前者。でも、愛嬌もあって憎めないという人物像で、これはある意味王道のオックス像だったのではないかと。妻屋氏って、見た目よりも実際に出てくる声が高いので、個人的にはもう少し低い声質だったらドンピシャなのに、とも思ったが、これは言っても詮無い話。余談だけど、元帥夫人の森谷女史は、上記した新国立劇場公演ではゾフィーの乳母のマリアンネ役だったので、役柄的には大出世ということになりますね(笑)
■演出や衣装・舞台装置等は極めてオーソドックスなもの。今時ここまで「当たり前」の新プロダクションというのも如何なものか、とも思うが、でもねぇ、たった2日の公演のために尖った演出を仕掛けても、それはそれで無駄というか徒労に終わる可能性もあるから、この辺は致し方ないのかも。プロジェクションマッピングが用いられていたという劇評を見て、え?どこで!? と驚いたのだが、そう言えば、3幕最後の二重唱の時に、背景に星空が映し出されていたっけと思い出し、そうか、あれかと。でも、それくらいが新機軸(とも言えないか...)で、後はオーソドックスなものでありました。
■阪哲朗指揮による京都市響の演奏も「普通に楽しめ」ました。何度も書きますが、これはすごいこと。阪氏は(抜粋ではなくオペラ全幕としての)「ばらの騎士」を振った経験がどれくらいあるのだろう。音楽の運びにも、歌わせ方にも、決めの打ち方にも、見得の切り方にも、何も違和感はなく、本当に普通に「ばらの騎士」の音楽を聴くことができて、改めてその手腕に感嘆した次第。これまた余談だけど、私の前所属オケって、私が辞めた2年後だったかに、阪氏の指揮で「ばらの騎士」の抜粋をやってるのよね。あのまま残ってたら一緒に演奏できたかもしれないのだが(乗せてもらえなかったかもしれないが...>苦笑)残念。
■一方のオケの方はというと、すんません、私の頭の中には「デフォルト」のオケ演奏がありますんでね、それと比べちゃうと「違う」というところが散見(というか全部?)されてしまうわけです>特にホルンは...。でも、それこそが「言っても詮無い話」。だから、それはそれ、これはこれとして虚心坦懐に拝聴したわけでありますが、その上で申し上げるならば、「もっと語ってくれ!」だったかな。特段のキズもなく、皆さんしっかりと演奏されていたけれど、オケの側がどれくらい「物語」に参画していたかと言えば、そこは極めて薄味だったのではないかと。指揮者は「ばらの騎士」を知り尽くしている。ではオケは? 劇場付属のオケではないし、「ばらの騎士」の演奏経験が豊富なわけでもないだろうから、簡単に言ってしまえば「場数が足りない」わけだけども、それを踏まえた上でね、オケの側からの物語への関与・発信・参画がもっとあったら良かったのにと、そう思った次第です。
■そんなオケの中にあって、1番クラリネット奏者の演奏からは、何かを「語りたい!」という思いが伝わってきましてね、あぁ、なんかいい「音楽」をやってるなぁ、って思いながら聴いておりました。メンバー表によれば、首席奏者の小谷口直子さんという方。で、どんな経歴なんだろうと、帰宅後にプロフィールを検索してみたら... 「兵庫県生まれ。東京芸術大学音楽学部卒業。同大学大学院修士課程修了。ウィーン国立音楽大学に留学」とあって、私、マジで鳥肌立ちましたわ(笑)。文化庁派遣での1年間の留学だったらしいが、ヒントラーおよびパッヒンガーに師事したとのことで、どうだろ、やっぱり彼の地で「ばらの騎士」を観たんじゃないかなぁ。で、当団(というかウィーン国立歌劇場オケ)の演奏・音楽を"仕込んで"帰って来て、それを今回アプトプットしていたんじゃないかと>勝手な妄想です。なんにせよ、自分が「いいなぁ」と思う音楽を奏でていた人がウィーン留学経験者というのは、やっぱり嬉しいことでありますよ。小谷口直子さん。お名前、しっかり覚えました(^^;
■最後にお客さんのこと。ほぼ満席の大盛況で何よりだったが、やっぱり年配者が圧倒的多数でありました>私も含めて。格安のU30席(30歳以下)とかU24席とかも用意されていたようなのだけど、果たしてどれくらい利用されたのか。ここは、地方も都会もない(全世界?)共通の問題でありますね。1幕、2幕の幕切れでフライング拍手が出たらぶち壊しだなと身構えていたのだけど、幸いにしてそれは無し。ただ、3幕の最後は若干名が拍手を始めちゃって、ここは、ちょっとねぇ... と。でも、総じて「良いお客さん」だったのは確かでしょう>何様?(^^;
■琵琶湖の湖畔に建つホール。従って、ロビーからも琵琶湖が見えていて、素晴らしいロケーションでありました。で、琵琶湖と言えば「ほぼオーストリア」ということで、その掲示もあったことを記しておきます。「琵琶湖とオーストリアは控えめに言って瓜二つ」(^^;